秋田県畜産農業協同組合 鹿角支所 佐藤 実幸さん
指導業務部主査、鹿角支所駐在。鹿角市十和田大湯にある熊取平牧場で、鹿角のブランド牛“かづの牛’を育てている。
大自然の中で“かづの牛”と生きる男の物語。
緑生い茂る牧草地でのんびりと過ごす赤褐色の牛たち。まだ小さい仔牛が群れの中を楽しそうに跳ねている。牛のそばに佇む赤キャップの男性は、鹿角が誇るブランド牛“かづの牛”を育てる佐藤実幸さんだ。
取材の冒頭、少し離れた場所にいた牛の群れを「こっちに呼びますよ」と頼もしげに言っていた佐藤さん。かづの牛たちの好物が入った紙袋を掲げながら「コーコーコーコー」と大声で叫ぶと「おやつの時間だ」とばかりに牛たちが寄ってくる…はずだが、今日は見知らぬ撮影隊の姿におびえているのか、なかなか近づいてこない。「なんだ、今日調子悪いなぁ」とぼやく姿が愛嬌たっぷりだ。
ここは鹿角市十和田大湯にある熊取平牧場。約150haの広々とした牧場で、およそ190頭もの“かづの牛”が放牧されている。ちなみにこの日、牛を探して佐藤さんと取材班は軽トラで爆走。いけどもいけども果てが見えない農場の広さを身をもって知った。
広い牧草地でのんびり、のびのびと。牛のストレスを減らすことが大事
ホルモン剤などはいっさい使用せず、できる限り自然のままに育てます。
かづの牛は、尾去沢鉱山の銅を青森の港へと運搬するために東北地方の北部で古くから飼われてきた『南部牛』に、明治の頃『ショートホーン種』という外来の品種を掛け合わせて品種改良された『日本短角種』。短角種という名前の通り、角が短いのが特徴で、全国で飼育されている和牛のうち短角種はわずか0.005%。大変稀少性が高い牛だ。
「黒毛などの有名なブランド牛は、生涯を牛舎の中で過ごすのがほとんど。それに比べて、この子たちは夏場はずっと放牧していて、昼夜を問わず、この広い牧草地で過ごしています。雨が降れば木の下で雨宿りしてるし、好きな時間に餌や牧草を食べて、たっぷりと運動し、好きな時間に昼寝して過ごす。自由にのびのびと育てることで、牛たちのストレスは減るし、筋肉が発達するので上質な低脂肪の赤身肉になるんです」。
脂肪分が少なくヘルシー!噛めば噛むほど旨さを堪能できます
かづの牛は、ひと口嚙みしめると、濃厚な旨味が広がる。この旨味こそ、広い牧草地を走り回ることで生まれるという。また、牧草に加えて与えているのは地元の浅利佐助商店の醤油の搾りかすや、鹿角の特産であるりんごを使ったジュースの搾りかす、飼料用稲(ホールクロップサイレージ)など。できるだけ地元のものを食べさせているのもこだわりだ。
たっぷりの愛情を注いでかづの牛は育てられている。食べてくれる人の顔を胸に、佐藤さんは今日も牛たちに呼びかける。「コーコーコーコー」と。
農場は非常に広く、牛の群れを探すのもひと苦労。やっと見つけた群れに、声をかけながら少しずつ近づいていく佐藤さん。